凶鬼は幻術を得意とする凄腕の暗殺者で、普段は見習いの占い師として辻占いをする日々を送っているまだ幼さを残す少女である。
　彼女は初対面の者には必ず自分の顔を見せ、覚えはないか訊ねるという。それが、これから手を下す犠牲者であってさえもだ。彼女は記憶の中の自分と、今の自分はまったく違うものであると親しい友人には語る。つまり、暗殺者、凶鬼の心はこの見ず知らずの少女の身体を乗って生きている。この少女が何者か、そして自分が何故このような事になったのか、その答えを求めていると…。
　彼女は知らない。マガツキの名で呼ばれた者は、かつて自分の兄であった事を。そして、自分は組織を抜けた兄を殺した時、自分を否定し心を殺してしまった事に。自分の存在を否定し心の中の兄を演じる暗殺者、彼女が否定していた自分を見つけたとき、そこにあるのは『開放』だろうか、それとも更なる『狂気』なのだろうか…